西加奈子著
他人の目を気にし、空気を読みまくって生きることに疲れ果てた百合は、ちょっとしたことで勤務していた会社を辞め、発作的に離島のリゾートホテルを訪れる。そこで出会ったのは風変わりでデリカシーのないバーテン・坂崎と美形だがセクシャルな臭いのしないドイツ人・マティアスだった。そんなに凝った構成ではないし、小説としての読み応えもいまひとつなのだが、百合の周囲に対する気の回し方、過剰に周囲の動きを気にしてしまう感じの描き方は、こういう人なんだな、こういう人いるんだろうなという説得力がある。百合は、たとえ直接的に自分に関わることでなくても、周囲の人の気分を損ねたくないのだ。それは気がきくとか優しいとかではなく、極端な臆病さのようでもある。彼女のそういう態度には、「うつくしい」姉への反感とコンプレックスがあるのだが、姉のうつくしさとある種の鈍感さへの苛立ちも、ああそういうことってあるだろうなと思わせるもの。姉は自分の世界だけで生きているが、周囲からの見られ方ばかり気にしている百合には、自分の世界というものがおそらくないのだ。