「音楽家と音楽愛好家のためのムジークエレクトロニクスガイザインで聞く爆音映画祭 selected by 坂本龍一」にて鑑賞。20世紀を代表する画家、フランシス・ベイコンと彼のモデルで愛人だったジョジ・ダイアーの関係を描いた作品。アトリエに盗みに入ったダイアー(ダニエル・クレイグ)はすぐにベイコン(デレク・ジャコビ)に見つかるが、彼はダイアーをベッドに誘い、2人の関係が始まった。ベイコンはダイアーを精神的に苛み、またダイアーはベイコンの芸術家仲間には馴染めず、酒とドラッグに溺れていく。監督はジョン・メイブリィ、音楽は坂本龍一。1998年の作品。
 ベイコンとダイアーの出会いからダイアーの死までの7年間を描いた作品だが、いわゆる伝記ではない。時系列も進んだり戻ったりする。本作はその瞬間瞬間でベイコンが対象をどのように見ていたのか、ベイコンとダイアーの関係がどういうものだったかに集中しているように思う。映像はベイコンの作品を再現するかのように、人物の顔のゆがみや質感、三面鏡を使ったショット、檻のようなセットなどを取り入れている。ベイコンの人間像と作品を表現する上でこの方法がベストなのかどうかはちょっと疑問だが(絵画の構図そのまま再現されてもなぁという)、映像としては面白い。今のショットはあの作品だな、というような楽しみもあった。坂本による音楽は、旋律そのものよりも、それを取り囲むノイズの部分が本作の雰囲気に合っている。爆音上映だと、筆がキャンバスを撫でる音、キャンバスが破れる音などがよりくっきりと聞こえて印象に残った。
 ベイコンとダイアーの関係は概ねぎすぎすしているように見えるが、やはりお互いに愛情はある。ただ、その愛がお互いを幸せにしているのかというと、そうとは言えないところもある。ベイコンは作品はマゾヒスティック、セックスでもどうやらマゾヒスティックな傾向があるようだが(この映画において)、精神的にはサディスティックな傾向があり、ダイアーを言葉や態度で傷つける。彼が描きたいのは傷ついたダイアーであって、もしダイアーの精神が頑健だったら興味を持たなかったし、モデルとして傑作を製作することは出来なかったのではないかと思う。ダイアーは酒とドラッグへの依存を深めていくが、それはベイコンが(もちろん口ではダイアーをいさめるが)心の底では望んだことでもあったのでは。