親子3人で暮らしていた少年は、出稼ぎに行った父親を捜して家を飛び出す。旅の先には大規模な農場や工場、豊かだが独裁政権が力を伸ばしつつある大都市等が現れる。監督はアレ・アヴレウ。
 クレヨンや水彩絵の具で描いたようなタッチのアニメーション。キャラクター等個々の造形は一見シンプルだが、その重なり合いや色のカラフルさが素晴らしい。また、ナナ・ヴァスコンセロらによる音楽が大きな要素になっている。少年が父親から教わった笛のメロディが、様々なバージョンで繰り返される。どこか懐かしく、祝祭感がある音楽は、独裁政権下の楽団が奏でる重苦しいリズムとは対称的だ。
 ブラジル(本作はブラジル映画)社会の変遷が背景にあるのだろうが、固有名詞的なものは出てこないので、むしろ神話や寓話を思わせる。少年が故郷を飛び出していく「行きて帰りし」物語であるところも、やはり神話的だ。冒頭のどんどんカメラが引いていくような映像は、この為にあったのか。
 少年が「帰る」先が、両親との思い出にまつわる場所であるということが、やたらと心に迫った。子供時代の体験って、以降の体験とはまた別の意味を持つものだと思う。マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィッドの短編アニメーション『岸辺のふたり』を思い出した。あの痛切さに似たものが本作にもある。
 少年は世界の美しさを見ると同時に、社会の矛盾、貧富の格差や権力の暴走といった社会の暗い面も見ていく。彼は世界、自分の人生に失望したのかもしれない。終盤の寂寥感と、本作の構造が明らかになる流れには思わず涙した。しかしそれでもなお、世界は美しいのだ。子供の頃の記憶が、彼の人生を支えていたのではないかと思える。