小川洋子著
「ことりの小父さん」と呼ばれる男には、人間の言葉は話せないが小鳥のさえずりを理解する兄がいた。兄の行動範囲は限られており、2人は小さな世界でひっそりと生きていたが、静かで満ち足りたものだった。やがて兄はなくなり、「ことりの小父さん」は幼稚園の鳥小屋の掃除を日課にするようになる。世界の片隅でつつましく生きる兄弟の一生を美しく描いている。自分に必要なものをわきまえ、多くを求めない。しかし同時に、どこか物悲しくさみしくも見える。彼らの生活がさびしいからではなく、世間が彼らの価値観を理解しないから、誤解されやすいからだ。世界に彼らのような人たちが安住できる場所は、だんだん小さくなってきているようにも思える。著者の描き方が優しいだけに、より辛くなる。なお、小野正嗣による文庫版解説が良い。