ヘニング・マンケル著、柳沢由実子訳
もうすぐ30歳になるリンダ・ヴァランダーは、紆余曲折を経て警察学校を修了し、この秋からイースタ署に勤務することが決まった。夏の間は警官である父・クルトの家に居候している。地元に帰ってきたことで旧友とのつきあいも再開したが、その中の1人、アンナが姿を消した。彼女が約束を破るとは思えずリンダは心配し、クルトの制止を振り切り情報を集めに奔走する。一方、森で起きた殺人事件と、相次ぐ動物への放火事件の捜査でクルトたちは慌ただしくしていた。クルト・ヴァランダーシリーズ最新刊。リンダはこれまでの作品にも登場していたが、なんと父親と同じ道を選び、本作では主人公格に。今まではクルトから見たリンダ像だけだったが、リンダはリンダでこういうことを思っていたのか、と作品世界に新しい側面が見えた。クルトは決して理想的な父親ではないし、リンダも理想的な娘ではない。2人は日常的にお互いにいらつき、ぶつかり合う。2人のいらつき方や怒り方が似ていて親子なんだなとおかしくなるが、当人たちにとっては、そういう所が似ているというのがまた、いらつく要因なんだろう。本作、父親と娘の関係が一つのモチーフになっている。特に、子供は親を諦められないということをしみじみと感じた。リンダにしても、父親に対して期待していないようでいて、やはり期待しているところがある。それは親側からしても同じだろう。事件の結末は、お互いに諦めきれなかった結果のようでもあった。