サラ・ウォーターズ著、中村有希訳
第一次大戦後の1922年。ロンドン郊外の屋敷に母親と住むフランシスは、戦争で兄弟を失い、父も亡くなり、生活為に屋敷の2階を人に貸すことにした。引っ越してきたのはレナードとリリアンのバーバー夫妻。常に他人の気配がする生活に慣れないフランシスだが、リリアンと仲良くなっていく。やがて強く惹かれあうようになったフランシスとリッリアンだが、ある事件が起きる。上巻と下巻ではがらりと雰囲気が変わるので、これは分冊されて(分量的にも)正解なんだろうなぁ。上巻はロマンス、下巻はサスペンス色が濃くなる。フランシスはリリアンへの思いにともすると振り回され、しかし彼女の為により強くなろうとする。フランシスは経済的な困難や過去の出来事によって、自分の人生を枠にはめてしまい思うように生きることを諦めていたが、リリアンとの出会いによってまた情熱を取り戻していくのだ。前半では恋愛によってフランシスがどんどん生き生きとしていくのだが、その分後半の展開はやりきれない。ある事件によって、彼女らが得たと思っていた強さも意思も失われ、猜疑心と罪悪感に苛まれるようになるからだ。2人の間に生まれた魔法のようなものが、あっという間に崩れていく過程は苦く切ない。それでも、「それ以外の選択は出来ない」ことがある。崩れ去ってもなお残るものがあるのではないかと提示するような、薄闇の中のラストシーンが印象に残った。