草壁光(神谷浩史)と佐条利人(野島健児)は高校の同級生。バンド活動をしていて賑やかな人気者の草壁と、真面目で物静かな秀才の佐条に接点はなかったが、合唱祭の練習がきっかけで接近していく。原作は仲村明日美子の同名漫画。監督は中村章子。製作スタジオはA1Pictures。
 原作はBL漫画の名作(と言っていいだろう)だが、BL漫画を劇場アニメ化ということよりも、中村明日美子作品を、ということにびっくりした。というのも、中村作品を読んだことがある人はお分かりだろうが、細く細やかな線と、手足がひょろっと伸びたフォルム、黒目部分の小ささ(か、逆に極端な大きさ)に特徴があり、アニメーションとしてバランスよく動かすのはかなり難しそうな、アニメ映えしない絵柄に見えるからだ。佐条の髪の毛の跳ね具合やふよふよ感なんて、これをそれらしく動かすのはかなり大変なんじゃないかな。
 が、本作は予想以上にキャラクターデザインを原作に寄せている。もうちょっと動かしやすい方向にアレンジしてくるのかなと思ったが、まんま原作通りと言っていいくらいの忠実さ。さらに、水彩画のような淡くてグラデーションのある色彩の雰囲気も再現(さすがにそのまんまという感じではないが)。かといってアニメーションとして動いた時の違和感はない。いやーよくこの微妙な所に落とし込んだな・・・。キャラクターデザイン(林明美)頑張ったなー。
 ストーリーは原作の、最初の夏から次の夏までの1年間を描く。60分という中篇の尺だが、もう少し先まで見てみたくなった。これは製作サイドの意図通りなんだろうな(笑)。原作のおいしい部分を選りすぐって余すところなく見せるぞ!という意欲が感じられた。少女漫画的なモノローグがしばしば挿入されるが、これは大体草壁のもので、本作は基本的に草壁の視点で進む。草壁は佐条よりもアクティブなのだが、特に走るシーンが印象に残った。感情が高ぶった時、感情に思考が追い付かずにわーって感じになった時に走り出すのだが、これこそ青春だよ!って感じがして、見ている側もぶわーっと何かがこみ上げる。この、何だかわからないが感情が揺さぶられる、という感じがよく演出されているなぁとしみじみ思った。草壁と佐条は性格も家庭環境も交友関係も全然違い(「別ジャンル」と草壁の友人は称する)、共通項は同級生だということくらい。それでも、2人の関係は大きく動くのだ。
 青春の一番きれいな部分の、更にうわずみの部分を抽出したようなキラキラ感と透明感に満ちたアニメーション。水彩絵の具のような淡くて透明感のある色味が美しい。A1Picturesが手がけた作品は、背景美術に透明感があるものが多いという印象があったが、本作も背景が良かった。なお、BLとしてはリリカルの極みかつ淡いので、普段BLを読みつけない人でも大丈夫かなとは思う。