米ソ冷戦下のアメリカ。保険分野で経験を積んできた弁護士のジェームズ・ドノヴァン(トム・ハンクス)は、政府からある依頼を受ける。ソ連のスパイとして逮捕されたルドルフ・アベル(マーク・ライランス)の弁護をしてほしいというのだ。依頼を受け裁判に臨むドノヴァンだが、敵国のスパイを弁護したと世間から非難され、家族にも危害が加えられそうになる。それでも弁護士としての職務を全うしようとするドノヴァンとアベルの間には、一種の敬意が生まれ、裁判はなんとか死刑判決を回避し懲役30年の判決を得る。5年後、ソ連を偵察飛行中だったアメリカ機が爆撃され、パイロットのフランシス・ゲイリー・パワーズ(オースティン・ストウェル)がソ連に捕えられた。同時に東ドイツではアメリカ人学生フレデリック・プライヤー(ウィル・ロジャース)が逮捕される。交渉人に任命されたドノヴァンは、アベルと2人のアメリカ人を交換するという奇策に挑戦する。監督はスティーブン・スピルバーグ。脚本はジョエル&イーサン・コーエン。1960年に実際に起きた事件を元にしている。
 実在の人物をモデルにしている物語そのものはもちろん面白かったが、建設途中のベルリンの壁が出てくるという、時代背景も見所。壁が未完成(それにしても短時間でよくこんなもの作ったな!冗談かと思いそう)で穴があるので、東から西へ人が次々と逃げていくのだ。東ベルリンはまだ廃墟が多く残っている状態で実に寒々しいのだが、廃墟や荒廃度合いの作りこみにやたらと気合が入っていて、当たり障りのないアメリカのシーンのセットは何だったんだ!と突っ込みたくなった。スピルバーグは根本的に廃墟・塹壕好きなんだろうな・・・。ともあれ、時代描写の面でも面白い作品。
 ドノヴァンは自分にメリットはほぼないと承知でアベルの弁護を引き受け、死刑を回避するのに奔走し、果ては無実を勝ち取ろうとする。周囲はそれを理解できず、なぜアメリカの敵を守ろうとするのかと問う。ドノヴァンにとっては弁護しないという選択はないのだろうが、アメリカには憲法があるからということを言う。被告が悪人であろうが国の敵であろうが「それはそれ、これはこれ」で、人としての権利は守らなくてはならない、フェアな裁判を受ける権利があるわけだ。アメリカが立憲国家である以上、ここをおろそかにしたら国の根幹を損なう、それこそ本当に国益に反するのでは?ということだろう。自分たちを守っていたものをおろそかにすることになるのだから。
 ドノヴァンは、頭脳と交渉力を駆使するが、いわゆるヒーロー的な華やかな人物ではない。一つ一つ出来ることをやっていく地味な仕事ぶりだ。FBIの監視を振り切ったと思ったら全然振り切れてなかったり、ベルリンのチンピラにコートをまきあげられたりもする。ただ、アベルが「不屈の男」と評するように、彼は自分の信念を曲げない。そこがかっこいいし、こうであれ、という願いも込められているように思った。ハンクスはスター俳優だが、むしろ本作のような地味な役の方が嫌みがなくていい。
 アベルの造形がとてもいい。演じるライランスの演技も素晴らしいのだが、国に忠実かつ飄々と不運を受け流していく感じが印象に残った。不安じゃないのか、怖くないのかと聞かれて「何の役に立つ?」と答えるところは、脚本を手がけたコーエン兄弟の作品ぽいかも。