ボクシングのヘビー級チャンピオンだったアポロ・クリードの息子、アドニス・ジョンソン(マイケル・B・ジョーダン)は、生まれた時には父親は既に死亡しており、父親のことは映像でしか知らなかった。母親は、アポロが若くして死んだのはボクシングが原因だとして、アドニスがボクシングに興味を持つのにいい顔はしなかったのだ。しかしどうしてもプロボクサーの路を進みたいアドニスは仕事を辞めて家を出る。向かった先はアポロのライバルで親友だったロッキー(シルヴェスター・スタローン)の店。アドニスはロッキーにトレーナーになってほしいと頼む。監督・脚本はライアン・クーグラー。
 アポロの息子がアドニスって、すごいネーミングセンスだな・・・。それはさておき、秘められた才能はあるがチャンスをつかめずにいる若者が特訓に特訓を重ね強くなる、という王道スポ根少年漫画のような物語で正直なところ新鮮味はないし、そもそもロッキーシリーズである必然性があるのか?と言われるとシリーズのファンでない自分には何とも言えない。しかし、王道・ベタにはベタ故の良さがある。本作は良くできたベタ。盛り上がるぞ盛り上がるぞ・・・盛り上がったー!みたいな、定番だからこその気持ちよさがある。試合シーンの迫力もあって、エンターテイメントとしてのちょうど良さを感じた。
 アドニスには、実母を亡くして以降、里親の元や施設を転々として、素行が荒れていたという過去がある。そこから立ち直らせたのが、彼を引き取って息子として育てたアポロの妻だった。アドニスは成長し大学を出て投資会社に就職、そこそこ順調にキャリアを積んでいた様子なので、子供時代のキレやすさは克服したのかな?と思いきや、ちょっとしたことでキレてしまう。一見、あれ?唐突な展開だなと思ったのだが、彼がキレるのは父・アポロに絡めてからかわれた時だ。
 アドニスはアポロが父親だということはもちろん知っているのだが、直に会ったことはないし、アポロが息子である自分のことをどう思っていたかも知らない。父親との距離感や父親にとって自分がどういう存在か掴みあぐねているからこそ、アポロを引き合いに出されると混乱するしムカつくのだろう。本作はアドニスがボクサーとして路を切り開き成長していく物語であると同時に、彼が父親との関係を結びなおす物語でもある。彼は、父親が(隠し子である)自分を恥じていたのではと、ずっと恐れていたのだ。
 アドニスは会社員からボクサーに転身し、人生を再挑戦する。これはロッキーについても同じだ。彼もまた、難しい局面を迎える。その局面を乗り越えよう、挑戦しようと決意させるのはアドニスだ。また、アドニスの恋人ビアンカ(テッサ・トンプソン)もまた、ある難局と戦い、自分の人生を生きようとしている。加えて、アドニスと対決することになる現チャンピオンのコンラン(アンソニー・ベリュー)もまた、後がない状況だ。主要な登場人物が皆、人生を賭けた戦いをしている。手持ちの札が限られている中でどう生きるか、何を選ぶかという側面が彼らには色濃く、興味深かった。本作のもうひとつのモチーフなのかなと。