西アフリカ、マリ共和国のティンブクトゥに暮らす少女トヤ。町はイスラム過激派のジハーディストに占拠され、彼らが作った法で音楽や笑い声、サッカーも禁止されていく。町はずれに暮らすトヤ一家にも、ジハーディストは陰を落とすようになる。ある日、父・ギダンが事件を起こし、ジハーディストに逮捕されてしまう。監督はアブデラマン・シサコ。
 町中でジハーディスト達が、様々な禁止事項を複数言語でアナウンスしている。自由や娯楽を奪われ、人々は常に怯えるようになり、萎縮していく。冒頭、インパラを追う兵士たちが、「殺すな、疲れさせろ」と言うのだが、まさしく町の人々は疲れていく。疲れると、不条理に疑問をもつことも反抗することも、当然戦うこともできなくなってしまう。一見穏やかで美しい世界なのだが、少しずつ腐食されていくような不穏さがある。
 そんな中で、ユーモラスな光景も見られ、したたかに生を楽しむ人たちがいる。サッカーを禁止しているのにジハーディストたちはサッカーの話題で大盛り上がりしている。子供達はサッカーボールなしのサッカーをするが、何かのダンスのような美しい光景だ(見回りの兵士が通りかかるとすぐに体操しているふりをするのがおかしい)。また、密かに音楽を奏で、歌を歌う人たちがいる。ジハーディストが禁じたもので幸福を得ることは、彼らに対するカウンターでもある。そんなささやかな輝きも、暴力的に奪われてしまうというのが辛い。
 町の人たちも、イスラム過激派も、同じくイスラム教徒のはずだ。しかし会話の噛み合わなさは何だろう。不条理の国の出来事のようでどこかおとぎ話のようにも見えてくるが、これ現実の世界が舞台なんだよな・・・。どっと徒労感に襲われる。
 直接的な暴力の描写は少ないが、暴力の気配みたいなものが漂っていて、いつ発火するのかとひやりとする。銃を手に持っている人の姿が、例えばハリウッドのアクション映画で見るのとは(当然のことながら)全然意味合いが違うんだなと痛感した。ラストも、様々な受け取り方はあるだろうが、私は嫌な終わり方だなと思った。走り続ければいつかは倒れてしまうのだから。