アイスランドの田舎町。弟グミー(シグルヅル・シグルヨンソン)と兄キディー(テオドル・ユーリウソン)の老兄弟は、先祖代々この土地で羊牧をしている。2人は犬猿の仲で、隣同士に住んではいるが40年間口をきいていない。ある時、キディーの羊が疫病にかかっていることがわかり、村中の羊が処分されることになる。キディーは荒れるが、グミーはある秘密を持っていた。監督・脚本はグリームル・ハゥコーナルソン。
 同じくアイスランドの映画『馬々と人間たち』を思い出した。家畜と人間が登場する、アイスランドの田舎が舞台、というだけでなく、人間と自然の在り方が同じように見える。人間はもちろん自然の中で生きているのだが、共存しているなんて生ぬるいものじゃなくて、振り落とされそうになりつつもしがみついているという感じ。人間に対して、自然は圧倒的な他者で断絶しているように見えるのだ。アイスランドの風土が日本のものと比べると厳しく荒々しく見えるというのも一因だ。その荒々しい風土が本作の魅力の一つではあるのだが、実際に住んではいないから簡単に魅力だなんて言えるわけだけど・・・。本作、主に冬が舞台なので更に寒々しい。この寒さの中生活していくのは大変だぞ!ということがぱっと見すぐにわかる。酔っぱらって屋外で寝てしまうキディーはよく死なないな(一回死にかけるけど)!と感心してしまったりも。
 グミーとキディーは言動も暮らし方も対称的だ。グミーはシャイで物静か。自宅はきれいに片づけており、伝票類の処理も几帳面でパソコンも使いこなしている。対するキディーは昔ながらの羊飼いといった雰囲気で、豪快でおおらか、いわゆるジャイアンタイプでもある。羊牧家としては優秀なので村人からの人気はあるが、正直、キディーみたいな兄がいたら揉め事ばかり起きそう。2人の不仲は相続問題という要因もあるのだが、言いたい放題の人と何も言えない人との組み合わせは色々こじれやすいということもあるのだろう。周囲に何もないし会う人も限られているから、余計に2人の関係が煮詰まってしまいそうだ。
 グミーもキディーも、羊を愛している。彼らの羊はこの土地の固有種で、今生きている羊たちが死んでしまったら、その血統は途絶えてしまう。羊が原因で仲違いしていた2人が、羊の為に関係を(なりゆきとは言え)築き直すことになる。羊は彼らを繋ぐある種の絆ではある。ただ同時に羊は、彼らを絡み取る呪いであるようにも見えた。2人はもちろん羊牧の仕事を愛している。しかし、それ故にこの土地から離れられない、そして2人とも羊牧家である以上、(冒頭の品評会のように)兄弟で比べられることからは逃げられないのだ。農場を離れ、羊をなくして初めて、2人はそれぞれ個人として向きあい、自分が相手をどう思っているのか、見つめ直すことが出来たように思う。