フレドゥン・キアンプール著、酒寄進一訳
ピアニストのアルトゥルは死んでから50年後の1990年代の世界になぜか蘇った。生きている人たちにも彼の姿は見えるし話も出来る。音楽大学の学生ベックの助けを得て、風変わりな学生たちと同居生活を始めるが、奇妙な出来事が相次ぎ、ついに殺人事件が起きる。自分と同じような死者が関わっていると気づいたアルトゥルは、犯人を探し始める。死者も生者も順応力がありすぎる!蘇ったアルトゥルが現状を理解するのはともかく、アルトゥルに自分は実は死者なんだと打ち明けられたベックがあっさり受け入れ、しかも住処を提供して友情が芽生えるまでの展開が速い!頭柔らかいなぁ。奇妙な味わいのミステリだが、現代のパートと、アルトゥルが生きていた第二次大戦中、ナチスの侵略が始まりつつあったフランスでのエピソードが交互に配置されており、徐々にアルトゥルがなぜ死んだのか、彼は何に負い目を感じているのかが明らかになる。これはアルトゥルだけでなく、あの時代の多くの人たちが負った負い目なのだろう。そして犯人が抱えた怒りも、あの時代に生きた一部の人たちが抱えていたもの(だからといって犯人の行動は正当化されないが)だろう。一見コミカルなのだが、ある時代の悲劇が背後にあり、色濃く影を落としている。最後、あっけなく終わるようにも見えるのだが、アルトゥルが蘇った理由はここにあったという潔さもある。