教師の鈴木(生田斗真)は、自動車の暴走事件で死亡した恋人の仇を取る為、裏社会のドン・寺原(石橋蓮司)の組織に潜入していた。しかし事件の裏にいた寺原の息子が、押し屋と呼ばれる殺し屋に目の前で殺されてしまう。組織に命じられて押し屋を尾行する鈴木。一方、若手の殺し屋・蝉(山田涼介)は、ターゲットを自殺に追い込むという殺し屋・鯨(浅野忠信)を消せという依頼を受ける。鯨は死ぬ間際のターゲットの告白を耳にする為、寺原の組織の秘密を知りすぎたというのだ。原作は伊坂幸太郎の同名小説。監督は瀧本智行。
 原作は読んだが内容をほとんど覚えていない。本作を見るにはむしろそれでよかったのかもしれない。一昔前の「クール」なセンスで、懐かしさも感じつつ楽しめた。監督の前作『脳男』を見た時も思ったのだが、美術のセンスが90年代っぽい。こういうのが一つの記号(目的不明の廃工場とかバーやライブハウスっぽいアジトとか、ビルの屋上に根城があるとか)として成立するようになったんだろうけど、なんだか様式美の世界みたいだなと思った。浅野忠信が殺し屋役だったり、村上淳が蝉のマネージャー的存在である岩西役だったりするのも、あの頃の「クール」さの名残のように思った。この感慨深さはは現在の10代20代に通じるんだろうか・・・。
 生田演じる鈴木はごくごく普通の人。『脳男』で見せたアクションやヒーローっぽさは今回全く見せず、そのあたりは浅野や山田が担当している。特に山田演じる蝉はナイフが武器で近距離戦が主体。若干ぎこちないシーンもあるが、結構キレのいいアクションを見せてくれてうれしい。そういえば、蝉が仕事前におそらく血飛沫避けにレインコートを着るのだが、前をちゃんと閉めないので全然血飛沫避けになっていないあたりも様式美っぽいなと思った。
 原作よりも、ストーリーラインがおそらくすっきりわかりやすく構成されている。最後は若干説明過剰な気もしたが、普通の人の善意に対する希望が掲げられており、後味は悪くない。善意や良心は大きな力の前に無力かもしれないが、それでも、そういうものがちょっとだけ世の中を良くするのだ。