2007年、シカゴに住むジョン・マルーフは歴史研究の資料として、大量の古い写真ノネガをオークション入手する。その一部をブログに掲載したところ、大きな反響を呼んだ。撮影者の名前はヴィヴィアン・マイヤー。写真家としては全く無名の人物だ。彼女は一体何者だったのか。マルーフはネガと共に大量に残されたメモや伝票、手紙を手がかりに、彼女の生涯を調べ始める。監督はジョン・マルーフ&チャーリー・シスケル。
 マイヤーの足跡を追うミステリとしても、マイヤーという一人の女性の内面を覗き込むミステリとしても。ともあれ、マイヤーが「捨てられない人」だったからこそ成立した作品だろう。捨てられない癖にもいいところがあるな(笑)。
 マイヤーの写真はどれも魅力的だ。彼女の写真の多くは町にいる人たちのポートレート。これは人が好き、他人に興味がある人でないと撮れない作品だと思う。しかし、マイヤー自身は決して人づきあいが上手くないし、人好きするタイプでもなかったようだ。彼女は長年乳母をして生計を立てていたが、子供たちと遊ぶのが上手く、懐かれていたという話も出るし、彼女を嫌いだったという人もいる。雇い主との距離感や自分の呼ばせ方もまちまちだ。人嫌いというわけではないが、何よりも自分の世界を大事にする人だったんだろう。写真を見てもらいたいけど触れてほしくないという、うらはらな気持ちが彼女の人生からは見え隠れする。
 マイヤーを知る人を探し出し取材を続け、彼女の人生を発掘したマルーフの熱量もまたすごい。マイヤーの生き方は一風変わっていたかもしれないが、マルーフの情熱もまた一風変わっているとも言える。フィルムをブログで公開、まではよくあるかもしれないが、一人の人の人生を掘り起こすまでの粘り強さ(何しろ残された私物が膨大で、整理するだけで力尽きそう)はちょっと常軌を逸していると思う。作品は作品単体で成立しているはずなのに、そこに更にマイヤーの物語を付加せずにいられないというところに、何かの業みたいなものを感じる。マイヤーにとってこういう形で知られることが、本意だったかどうかわからないという側面もあるし。