有栖川有栖著
大阪市中之島のプチホテルで、梨田稔という69歳の男性が死亡した。死亡時の状況から警察は自殺と判断するが、ホテルの宿泊客で梨田と交流があった有名作家・景浦浪子はこれに納得できず、ミステリ作家の有栖川有栖とその友人で犯罪学者の火村英生に調査を依頼する。すぐには動けない火村にかわり、有栖川は単身、ホテルに向かう。火村シリーズ久々(なんと13年ぶり。そんなに経ってたか・・・)の書き下ろし長編。しかし渋い!渋いぞ!どのくらい渋いかというと、真犯人を絞り込むある手がかり、解説されても再度再〃度見直さないと気づかなかった。トリック、というかロジカルな絞り込み方がどんどん職人技になってきてるな~。加えて、本作の「謎」は梨田の死の真相だけではなく、彼がどのような人生を送り、なぜこの地に辿りつき、何を思っていたのかという、人間そのものの謎でもあるのだ。所詮他人事、他人の内面はわからないものではあるが、あえてそこを推し量る、というところが人間への好奇心であり(人間嫌いと言われつつも)有栖川の人間への愛着なのだろう。同時に、その好奇心を突き詰めると最後の景浦の表情が浮かび慄然ともするのだ。なお、小説としての文章が、妙な言い方だけどより効率化され、長持ちする文章になってきている気がする。ちなみに作中の時代設定は2015年。スマホもあるし東日本大震災も起こった。しかし火村も有栖川も34歳である。この割り切りに熟練の技を感じる(笑)。