見渡す限りの大草原の中、少女(エレーナ・アン)は父親と2人で暮らしている。訪ねてくるのは少女に思いを寄せる幼馴染の青年くらい。ある日、車が故障して立ち往生していた青い目の青年と知り合い、ほのかな三角関係が生じる。監督はアレクサンドル・コット。
 せりふは一切ないが、ファンタジーないしはSFめいた雰囲気にマッチしていて、寓話感がより高まる。俳優たちのルックス(エレーナ・アンの美少女ぶりもさることながら、父親役の俳優の風貌は強烈な印象を残す)に加え、地平線が見えるほどに真っ平らなロケ地の風景の力も強い。こういう風景あまり見慣れていないというのもあるんだろうけど(日本て本当に山の国なんだなーと実感した)。撮影がとてもよく、詩情に満ちている。タルコフスキーが引き合いに出されるのもよくわかる(ネタから連想するというのもあるだろう)。
 せりふがないことで詩情は高まるが、逆に人と人とのやりとり、交情のありかたがシンプルすぎて、おそらくギャグではないんだろうが笑っちゃうところも。男子2人が取っ組み合うところとか、いまどきそれか!いつの時代の青春ドラマだ!と失笑しそうになった。
 詩情が漂えば漂うほど、ラストのショックは強くなる。ラストで起こる事態は、少女にも青年たちにも少女の父親にも関わりない、全く別の文脈のものだ。その別の文脈によって彼女らの文脈が突然断ち切られてしまうという暴力性に立ちすくんでしまう。