ピアノの個人教師をしている瑞希(深津絵里)の前に、3年前に行方不明になった夫・優介(浅野忠信)が現れた。優介は瑞希に「俺、死んだよ」と告げ、一緒に旅に出ようと言う。瑞希は優介と共に、彼が3年の間に世話になった人達の元を辿る。原作は湯本香樹実の同名小説。監督は黒沢清。第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門監督賞受賞作。
 冒頭、瑞希が白玉を作り始めるシーンから数分間で、もうただごとではない雰囲気が漂う。次の瞬間には何かとんでもないこと、恐ろしいことが起こるのではないかという予兆に満ちているのだ。本作、夫婦の愛情を描いているかのような予告編だったが、何よりも幽霊映画なのだ。ただごとではないという雰囲気は、死者が急速に接近してくるということではないか。急に暗くなる画面やはためくカーテン、室内に吹き込む風は黒沢作品には付き物だが、本作ではそれが異界の気配として更に際立っていたように思う。
 ストーリー自体は直球のメロドラマと言ってもいいくらいだし、音楽がまたびっくりするくらいベタにメロドラマ感をあおるのだが、その見せ方、演出の方向性はホラーに近いような異様な印象だ。黒沢清の映画は、やっぱりホラーがベースにあるんだろうなぁ。
 死者として戻ってきた優介を、瑞希は今までよりも更に身近に感じ、深く愛し合う、しかし、どんなに近くにいると感じられても、やはり既に別の世界の人なのだと随所ではっとした。原作でもそういう部分は描かれているけれど、映画だと、浅野と深津の演技の力、2人のふるまい方の差異によってその感じがより強まっている。2人で旅をし日常的に言葉を交わしていても、優介は別の位相から話している感じがするのだ。おそらく、優介に見えている景色と瑞希に見えている景色は違うのだろう。そこがどうしようもなく寂しいところでもある。夫婦の絆というよりも、(片方が死者ということを置いておいても)全くの他人2人が隣り合っていることを痛感する。
 なお、主演の2人はもちろん素晴らしいのだが、ちょこっとだけ出演している蒼井優がしみじみおそろしく、撮り方に若干悪意を感じるくらいだった。