母親を亡くした喪失感から、麻薬とセックスにのめり込み、結婚生活を破たんさせ何もかも失ったシェリル・ストレイド(リース・ウィザースプーン)。人生を仕切りなおす為に、徒歩による1600キロの旅、パシフィッククレストレイルに出る。実在の女性シェリル・ストレイドの自叙伝を元にした作品。監督はジャン=マルク・バレ。
 シェリルはトレイルの経験もなく、アウトドアが得意なわけでもない。パシフィッククレストレイルに出たのは無謀もいいところなのだが、イタい人、考えの足りない人というわけではない。彼女はトレイルに本とノートを持っていくほど読むこと・書くことに熱心だし、トレイルの名簿に文学作品からの引用を書き添えるくらい教養豊か。生前の母親とのやりとりからも、無鉄砲ではなくむしろ理知的な人なんだろうと察しがつく。彼女がトレイルに出るというのは、相当どうかしていたということなのだ。本作で一番びりびりきたのは、基本ちゃんとしているはずの人がここまでがたがたに崩れてしまうという所だった。
 彼女が生活を破たんさせてしまったのは、母親の死が契機になっている。母親はシェリルと弟を女手一つで育て、シェリルと一緒に大学にも通っていた。シェリルと母親の関係は非常に強く、当然喪失感も強烈だ。母親の死がそんなに堪えるのか、理解ある優しい夫でも支えることができないのかという人もいるかもしれない。だが、個人的には他人事とは思えなかった。親と二人三脚みたいに育ってきちゃうと、いなくなった時に茫然とする(特にシェリルの母親の場合は若くして急激に病状が悪化するという状況だし)と思う。闘病を支えてきたなら、燃え尽き感も強いだろう。私は幸いにもこういう経験はまだないけど、身につまされるわ・・・。
 なお、母親がほぼ成人の弟にいそいそとご飯を作ってあげる姿に、読んでいるもの(大学で勉強していること)とやっていることが違う、とチクリと言ってしまうはすごくよくわかる。弟が母親の病気と直面出来ず逃げてしまうのもわかる。母親はずっと母親でいてくれるものって気がしているんだよなと。だからいなくなるという現実が目の前にくるとパニックになってしまうのだろう。
 本作、シェリルがトレイルをしている現在と、なぜここに至ったかという過去がフラッシュバックのように入り乱れた構成になっている。これがすごく良くできていると思った。記憶のよみがえり方、特に嫌なことを思い出した時の嫌な記憶の連鎖の仕方の再現度がやたら高い。いい記憶は連鎖しないんだけどなぁ・・・。