唐の時代の中国。導師の元で修業し、13年ぶりに両親の元に現れた隠娘(スー・チー)は、凄腕の暗殺者となっていた。標的はかつて彼女の許嫁、今は父の主である田委安(チャン・チェン)。任務中に窮地に追い込まれた彼女は、鏡磨きの青年(妻夫木聡)に助けられる。監督はホウ・シャオシェン。
 とにかく映像が美しく、見入った。景色が素晴らしい(ほぼ中国でのロケだと思うのだが、場面によって植生が違うので結構広範囲で撮影したのでは)し、撮影も素晴らしいのだろう。ただ、美的に素晴らしいと言うだけではなく、淡い表現ではあるのだが、意外と人と人との関係の機微の描き方が細やかだったと思う。登場人物一人一人の言葉はそんなに多くはないし、会話そのものが少ない。しかしそのちょっとした部分で、この人はこういう人である、この人とこの人との間にはこういう経緯があるんだろう、みたいなものがたちあがってくるのだ。
 作中重点が置かれているのは、やはり隠娘と田委安だろう。しかし、2人が直接的に言葉を交わすことはほとんどない(と思う)し、2人がお互いをどう思っているのかも具体的には言及されない。それでも、隠娘の暗殺におけるフェアさ、田委安の妾や子供への対応の仕方で、彼女の思いや人となりが感じられるのだ。彼女のある種のフェアさに貫かれた行動に人柄がにじむ。人間ドラマってこのくらい淡くても、見せるところを見せればちゃんと説得力があるんだなと妙に感心した。
 特に印象に残ったのは隠娘の両親のやりとりだ。娘が暗殺者になって戻ってきたというのは、親からしてみれば相当思うところあると思うのだが、それが強い言葉で表わされるのは1か所だけ。あとは父親の表情が雄弁に語る。俳優の技量も素晴らしい。人間ドラマを語り過ぎない美しさがあると思う。