新宿・箱根を結ぶロマンスカーで、車内販売担当のアテンダントをしている北條鉢子(大島優子)。車内で怪しい万引き未遂男を見つけ追求したところ、男は箱根駅で逃げ出した。すったもんだの末、その男・桜庭洋一(大倉孝二)に破り捨てた母親からの手紙を見られてしまう。桜庭はなぜか、母親を探しに行こうと強引に鉢子を連れ出し、箱根の名所を2人で回る羽目になる。監督・脚本はタナダユキ。
 題名はロマンスだが、男女2人の間にロマンスらしきものが全く生まれないところがいい。男女がいれば恋愛が生まれる、って話ばかりな方が不自然で、本作のようにどうもこうもならない(なりそうになるが甘やかなものは全くない)ことの方が実際は多いだろう。鉢子と桜庭は、あくまで他人、ただの人と人として行動を共にする。その共にする理由も、あんまりしっかりしたものではなく、どこかふらふらしている。鉢子の母親がタイミングよく箱根に来ている可能性はかなり低い。それは双方わかっている。2人に必要なのは、日常と日常の隙間の時間みたいなもので、だからこそ自分の日常にはいないはずの人が同行者として都合がいいのだ。
 鉢子の持つ母親へのわだかまりはさして珍しいものでもないのだが、だからこそ切実だ。そんなことにこだわっている自分、家族で楽しかった瞬間を思い出してしまう自分が更に嫌になる、というのは何かわかる気がする。ショボい悩みだからよりしみじみしてしまうのだ。
 一方、桜庭の抱えている事情もなかなかにしょうもないものなのだが、本人にとってはどん詰まり状態。そういう状態になっている自分が嫌でしょうがない、という部分では2人とも共通している。だから桜庭はちょっとした逃避行に飛び出してしまうし、鉢子も(一見嫌々だが)それに乗っかってしまう。
 逃避行をやってみても、彼らの問題が解決するわけではない。でも少しだけ風通しが良くなる。その「少し」でまた日常をやりくりできるようになっていくんだろうなって思えるところがいい。