1960年代、人気絶頂だったビーチ・ボーイズ。作曲の大半を手掛けるリーダーのブライアン・ウィルソン(ポール・ダノ)は、斬新なサウンドを追い求めるが、メンバーからは理解されず、プレッシャーで精神のバランスを崩していく。そして20年後の1980年代。長らく低迷中のブライアン(ジョン・キューザック)は、車のディーラーをしているメリンダ(エリザベス・バンクス)と出会う。ブライアン・ウィルソン本人公認の、ブライアン・ウィルソンの物語。監督はビル・ポーラッド。
 ブライアンと父親の関係が、さほど突っ込んで描いているわけではないが印象に残る。父親が登場する場面は短いのだが、非常に強権的で、息子たちは大人になってからも父親を恐れている。また、ビーチ・ボーイズの音楽性にも口出ししたり、彼らのマネージメントをしていたり(途中で解雇されたようだが)で、とにかく過干渉だし、楽曲の著作権を勝手に売っちゃったりと、ちょっと無茶苦茶なのだ。抗議すればいいのにと思うが、子供の頃から父親に暴力を振るわれてきた息子たちにはそれが(能力的にも法的にも出来るはずなのに)できない。更にブライアンは、父親が去った後も、やはり自分と自分の音楽を支配しようとするカウンセラーと関わってしまう。カウンセラーのやり方は父親に輪をかけて無茶苦茶なのだが、やはりそこから逃れられない。支配されることも習慣になるのかとちょっとぞっとした。ここからブライアンを引っ張り出そうとしたメリンダは、相当ガッツのある人だったのではと思う。
 ビーチ・ボーイズのアルバム「ペット・サウンズ」はリリース当時、不人気だったそうだが、作中でもそのあたりの様子は描かれている。ブライアンの考えるサ ウンドは、一部のスタジオミュージシャンからは歓迎され、レコーディングスタジオは祝祭感に満ちている。しかし、ビーチ・ボーイズのメンバーはその祝祭の 中に入れない。音楽との個々との関係の深さの違いが、ここでぱっと見えてしまい、才能のあるなしというのは残酷なものだなとしみじみ感じた。メンバー側か らしてみたら、自分達にはさっぱりわからないもので盛り上がっているし自分達は不要みたいに見えかねないしで辛いだろうが、ブライアンにとっても、自分が やりたいことが一番身近な人たちに理解されないというのは辛いだろう。時代を先取りしすぎたというのもあるだろうが、そもそもバンドに向いていない人だっ たんじゃないかという気もしてくる。自分の持っている音楽のビジョンが明確すぎ、豊富すぎるというのも、それはそれで辛いのかなと思った。他人が入る余地がないんだもんなぁ。