5年前に1本だけ映画を撮った映画監督、渡邊タカシ(渋川清彦)は、ガンで入院していた兄マサル(光石研)の看病の為帰省していた。といっても看病とは名ばかりで、実のところは妻(渡辺真起子)に別居を言い渡されていたのだ。売れないシナリオライターの友人・藤森(岡田浩暉)に、編集者の淳子(河井青葉)を紹介されたタカシは、度々彼女と会うことになるが。監督は大崎章。脚本は『百円の恋』がブレイクした足立紳。
 はー身に染みる!タカシの結構な年齢なのに怖がり、面倒くさがりで前に進めないところが、実に身に染みる。未だ何者にもなれず、どうにかなる為の一歩さえ踏み出せないところも非常に身に染みる。映画業界の人なら更に身に染みるのではないだろうか。タカシは料理も家事も色々こまめに動くが、それは働き者だということじゃなくて、映画に関わる仕事を続けるのかどうかという問題から目を背けているということだ。妻はそれをわかっているから、タカシにぐさりと突き刺さる一言を放つ。妻はタカシが主夫をやっていること自体を責めているのではない。主夫をやるのもイクメンをやるのももちろんいいことなのだ。ただ、それをやっている自分に酔うな、言い訳に使うなということなのだろう。タカシの見込みが甘いことに対するいらだちなのだ。
 タカシの友人・藤森は、タカシ以上にさえないしイタい人に見える。が、タカシがうだうだとしている一方で藤森は本気でふんぎりを付けるし、かっこわるくてもあがく。彼の姿には、本作と同じく足立が脚本を手がけた『百円の恋』の主人公を、どことなく思い出した。終盤、藤森がタカシにかける言葉は予想外にぐっとくるのだ。映画業界であがいている人たちは、やっぱりこういう言葉をかけてほしいんじゃないかなぁ。
 モノクロ映像の涼しげな雰囲気が、タカシのこっけいさ、情けなさからちょっと距離を取ってイタさを緩和している。これ、自分に迫り過ぎるとちょっときつい話だよな。
 タカシの妻の造形がいい。単純にタカシに愛想が尽きたというわけではない。タカシが甘えたままでは夫婦関係は続けられないが、友人ではあるし、何より娘の父親ではあるとちゃんと整理しているところがいい。演じる渡辺も実にはまり役。上のこもり過ぎない、さばさばした感じがよかった。