マーク・ホダー著、金子司訳
蒸気機関や遺伝学など、科学技術の発達により変貌したもう一つの19世紀イギリス。著名な探検家のバートンは、王室からの勅命を受け、ロンドンに出没するという人狼の正体を追う。彼の前に現れ、こつ然と姿を消す「バネ足ジャック」と呼ばれる怪人は彼を敵視し、イギリスの発達とバートンの将来について予言めいたことを口にする。2010年度フィリップ・K・ディック賞受賞作。いわゆるスチームパンクなのだが、文章は正直あまり上手くないと思う。1人の登場人物の呼び方がまちまち(名だったり氏だったり役職だったり通称だったり)なのには閉口した。それが演出として機能しているならいいんだけど、そうでもないんだよな。全体の構成も、良くできている(終盤で一気にパズルのピースを埋めていくのだがそこがSF的に評価されているのだと思う)んだけどディスプレイがあまり上手くなくてちょっともったいない感じ。ジャンル的に内輪ウケみたいな感じになっちゃうのかな・・・。ところで、本作のように実際の歴史をアレンジした舞台設定の場合、登場人物はそのアレンジについて知覚していないのが普通だと思う。しかし本作の登場人物たちは、自分たちがいるのが改変された世界で、正統な世界は別にあるということを知ってしまう。ここはユニークだなと思った。知ってしまったことに対するリアクションは本作中ではまだ具体的に出てこないので、続刊でもっと言及してくるのだろうか。