日明恩著
都内で、違法薬物を製造していたと思われる場所からの出火が相次ぐ。港区飯倉消防出張所に配属された消防士の大山雄大は、現場から大量のペットボトルとメタンの成分が検出されたことに疑問を持つ。同じころ、行きつけの定食屋で向井という男をスリ被害から助けるが、意外な場所でまた向井を目撃する。どうも六本木界隈の暴力団と繋がりがある様子なのだ。前作『埋み火』から大分経ったなと思っていたら実に10年!長かった!しかし今回もしっかり面白い。これまでよりもかなり展開がスピーディで圧縮された感じ。作中の日数は短いが怒涛の展開なので、著者の前作『そして、警官は微睡る』からの疾走モードが続いているのかな。本来事務方志望だがどう見ても現場向きな雄大は、相変わらず仕事のハードさに対する不満は多い。が、やっぱり消防士の適性が(主に身体能力だけど)高いし、言うほどこの仕事嫌いじゃないんだなというのが端々から察される。でも自分では「嫌だ!」と言っているので新手のツンデレみたいな感じになってるけど・・・。雄大の友人2人が万能すぎて、ちょっとドラえもん化しているきらいはあるが、雄大(だけではなく、著者の作品の登場人物の多くに)の根底にまっとうに生きること、自分の「仕事」をやることへの肯定があるので、地から足が離れない。彼らの姿勢の正しさはちょっと眩しすぎるけれども。なお、町の描写はかなり現実に即しているので、雄大の飯倉消防署の立地に対する不満には納得せざるを得ない。