50才の誕生日を迎えた言語学者のアリス(ジュリアン・ムーア)は、講義中に単語が思い出せなかったり、ランニング中に道がわからなくなったりという自身の異変に気付く。病院で検査した結果、若年性アルツハイマー病と診断された。家族に事情を打ち明け、サポートを受けるようになるが、彼女の病状は進行し家族との関係も変化していく。監督はリチャード・グラツァー&ワッシュ・ウェストモアランド。
 原題は「STILL ALICE」。静かなアリス、と言う意味にも、まだアリス、という意味にも取れる。どちらも本作の内容に合っているけど、「まだ」と言われる方がさらにきつい。まだアリスだけど、次の瞬間はどうなるかわからない。アリスの肉体がある以上アリスなのか、周囲の人間はそう思えるのか、ということに繋がってくるのだ。アリスは徐々に自分が何者だったのか、周囲の人たちが誰なのかわからなくなっていく。そういう人に対して、家族はそれまでと同じように家族として振舞えるのかというと、なかなか難しいだろう。本作、ほぼアリスの主観で描かれるものの、彼女の変化と同時に家族の変化も大きな要素になっている。
 アリスが言語学者であるというところがまた辛い。彼女がアルツハイマーにより言葉を忘れていくことは、自分の生きた証、生きる意味を失っていくということだ。それを失くしても「まだアリス」だと言えるのかどうか。もしかしたら家族との関係を忘れていくことよりも、こっちの方が辛いんじゃないかなとも思った。家族にとっては「まだアリス」かもしれないが、彼女自身はそう思えないかもしれない。アリスはスピーチの中で、様々なことを忘れていくが、そんな中でも美しく喜ばしい瞬間はあると語る。しかし、徐々にその喜びすらわからない状態になっていく。アルツハイマー患者当人の視点での不安や苦しみを丁寧に追っていく作品なのだが、丁寧ゆえにたどり着く先が辛い。
 また辛いのは、家族の心がアリスの症状が進むにつれて離れていくということだ。彼らには彼らの生活があり(そもそも夫は経済的により彼女を支えなければならないから)責める気にはなれないが、家族であっても他人を理解する、理解する努力を続けるというこがなんと難しいことか。そもそもコミュニケーションがまともにとれない相手に寄り添うのは苦痛だもんなぁ。それまでは喧嘩ばかりだった二女が結果的に一番アリスと近くなるというところが面白いが、二女は結局母親の影響下、というか思惑から逃れられないのかと複雑な気持ちにもなった。