1970年代初頭。ロサンゼルスのビーチに事務所を構える私立探偵ドック(ホアキン・フェニックス)の元に、かつての恋人シャスタ(キャサリン・ウォーターストン)が訪ねてくる。彼女の愛人である大富豪が失踪したので探してほしいというのだ。捜査に乗り出したドックは、天敵の警官“ビッグフット”(ジョシュ・ブローリン)に妨害されながらも、予想外に大きな組織犯罪に迫っていく。原作はトマス・ピンチョンの同名小説(日本では『L.A.ヴァイス』として出版)。監督はポール・トーマス・アンダーソン。
 難解かつボリュームがありすぎることで有名なピンチョンの小説だが、本作はピンチョン作品としてはわかりやすい方だそうだ。確かに、あらすじや舞台装置はわりとよくあるハードボイルド小説っぽい。ただ、いわゆるミステリ的な筋立てを使ったハードボイルドとはまた異なる。謎を追う、というよりも、何か別の物を追っていたら謎の答えがたまたまというか自動的に、芋蔓式にやってきたという印象なのだ。ドックが流石ジャンキーというべきか、論理的な推理というよりもその場で得たひらめき(というかたまたまそんな感じになった、というような)によって行動しているからだ。
 ではドックは何を追っているのかというと、シャスタとの思い出ではないだろうか。ドックとシャスタがなぜ別れたのかは作中では説明されないが、彼はいまだにシャスタに思いを残しているように見える。少なくとも、シャスタと過ごした日々は彼にとって大切なものだ。だからこそ彼女の依頼を受け、奔走するのだろう。彼が真相に近づく手がかりを得るのも、シャスタとのある思い出がヒントになったからだ。ドックとシャスタの思い出は、どれも(大してさえない状況なのにもかかわらず)どこか幸福そうで、キラキラしている。過去が美化されていると言えばそれまでだが、シャスタが彼の幸福の一部であったことは違いないだろう。一貫してぼんやりとした表情だったドックが、ラストショットではちょっとかっこ良く見える。とするとこれは、(過去の愛に向けられたものではあるのかもしれないが)ラブストーリーなのだ。トーマス・アンダーソン監督作品の中では『パンチドランク・ラブ』に連なるんじゃないかなという印象を受けた。アッパーかダウナーかという違いはあるが。