1882年。アルゼンチン政府軍による先住民の掃討作戦の為、パタゴニアに派遣されたデンマーク技師のディネンセン大尉(ヴィゴ・モーテンセン)。ある日、同伴していた一人娘のインゲボルグが、若い兵隊と共に姿を消してしまう。ディネンセンは娘を必死に探し、やがて馬も銃も失い荒野をさまよう。監督はリサンドロ・アロンソ。モーテンセンは主演の他、製作と音楽も手掛けている。ほんと多才だなー。そしてわざわざ製作に参加しているのが本作のような作品だというところに、彼の個性を感じる。なんというか、人間のアイデンティティが揺らぐような話、異界に足を踏み入れるような話に惹かれる人なんじゃないかと思う。
 澄んだ、どこか枯れた色合いに魅力がある。特にインゲボルグのドレスの青色に透明感があってとても美しい。撮影監督のティモ・サルミネンはアキ・カウリスマキ作品を多く手掛けている人だそうで、なるほどと納得。モノクロに着色したような色合いが、四隅を丸く切り取った変形スタンダード画面と相性がいい。ショットの一つ一つに、カードや絵葉書のような「切り取られた」印象がより強くなっている。ガラパゴスの、見慣れていない人にとっては地の果てのように見える風景の効果もあって、絵の引力が強い。何しろファーストショットの画面奥にトドやらアシカ(らしきもの)やらが普通に映ってるから、それだけで何かとんでもないところに来ちゃったな!という気分が強まる。いきなり異世界っぽいのだ。
 しかしディネンセンはここから更に、異界へと入っていく。娘を追って奥地へ進んで行けば行くほど、この世の果てのような異世界感が強くなる。時間、ついには空間までも越えてしまったように見えるのだ。
 ディネンセンとインゲボルグは別たれたままだ。ディネンセンは娘を愛し、インゲボルグもまた父を愛しているのだろうが、ディネンセンが娘をよく理解しているというわけではなく、冒頭の会話からして少しすれ違っている気配がする。インゲボルグはディネンセンとは別の世界の住人であり、どの世界においてもお互いに不在であるように思えた。