カッパドキアでホテルを経営する元俳優のアイドゥン(ハルク・ビルギナー)。地元の地主の家の生まれで、裕福な暮らしをしている。若い妻のニハルは慈善活動に打ち込み、離婚したアイドゥンの妹ネジラも一緒に暮らしている。アイドゥンが家を貸しているイスマイルは生活に困窮し、家賃を滞納している。その息子イリヤスはアイドゥンが乗る車に石を投げつけ、あわや事故になりかける。監督はヌリ・ビルゲ・ジェイラン。チェーホフのいくつかの作品をモチーフにしているそうだ。
 作中、対話の占める分量がかなり高く、しかもそれぞれが自分の倫理やら正義やらを語り、お互いに非難しあいがちという暑苦しいもの。チェーホフが底にあるからかどうかはわからないが、舞台劇っぽい語りのありかただなと思った。どの人もこれみよがしに話し始めるからかもしれないが・・・アイドゥンが元俳優というのも、ともするとわざとらしい語りをついやってしまう、というところからきた設定なのかな。
 良心と倫理、善と悪についての問答が続くが、白熱しても空しい。これが正解という答えが出るものではないからだ。加えて、アイドゥンの言うことは、その時々によって、自分に都合のいいものにすぎない。彼には確固とした自分の考えや立ち位置はないように見える。彼がニハルに対してもネジラに対しても、うっすらとモラハラ・パワハラめいた振る舞いを続けるのは、そうやって上に立つことで自分の立ち位置を固めようとしているからのように見えた。ホテルの客や地元住民に対する態度からしても、彼はとにかく相手に対して影響を与えたい、相手を支配下に置きたい願望が強いようだ。その影響力は、知識・経験の差であったり、金銭の差であったりする。特にニハルに対する、「お前は何もわかってないんだから私に任せておけば安心」的な物言いは、にこやかに相手の力を削ごうとするもので腹立たしい。それはニハルの誇りを傷つけることなのに。
 そのニハルは、慈善活動に打ち込むことで自尊心を保とうとする。が、彼女も相手との差を使って、相手の自尊心を傷つけることをしてしまう。彼女はよかれと思ってやるわけだが、はたから見たら不遜なことでもあるのだ。
 言葉のやりとりに注意がいきがちだが、映画としての絵の強度もすごく高い。カッパドキアの風景に強力な魅力があると言うのあるのだが、ひとつひとつのショットがばっちり決まりすぎているくらいに決まっている。本作、3時間越えの長さで正直きついなと思ったのだが、ダレはしないのは映像として完成度が高いからだと思う。