1999年。元ニューヨーク市警の刑事で、今は探偵をしているマット・スカダー(リーアム・ニーソン)は、妻を誘拐・殺害された男から犯人探しの依頼を受ける。犯人は身代金を奪った上、妻をバラバラ死体にしたのだ。過去にも同じような事件が起きていることに気づいたスカダーは、犯人は狡猾な連続殺人鬼と考え調査を続ける。しかし新たに少女が誘拐される事件が起きた。原作はローレンス・ブロックの小説『獣たちの墓』。監督・脚本はスコット・フランク。
 これはよかった!原作は呼んでいないのだが、ローレンス・ブロックっぽい世界に仕上がっているのではないかと思う。リーアム・ニーソン主演でスカダーシリーズをあと何作か見てみたくなった。スカダーが断酒会に通っている設定をちゃんと踏襲していてほっとした。
ア バンで何が起きているのかわからず、妻を見る夫の視線なのかなと思っていると、アーっ!という恐ろしさにしろ、スカダーの人生が大きく変わってしまう一連の出来事にしろ、現場そのものを直接的には見せず、周囲を見せて状況を伝えるという、意外と抑制された見せ方だった。かなり残虐な殺害シーンもあるのだが、そのものずばりは見せないというやりかた(猟奇殺人事件ものだからPG対策もあるのかもしれないけど)の塩梅がいい。よく考えられていると思う。
 犯人は化け物的な存在だが、出てくる人たち全員、規格外に強いというわけではない。手持ちの札を全部使って何とか切り抜けるという、等身大の知恵と強さがある。まあニーソンに関しては最近の主演作のせいで死ななそうなイメージが強いのだが。麻薬売人の家なども、ほどほどの裕福さだったり、犯罪者であると同時に妻や子供を愛する家庭人であったりと、等身大の人間らしさがある。
 犯人は被害者の夫らのある弱みにつけこんでいた。夫は更に、自分が妻を死に追いやったのではないかと自責の念に駆られている。そしてスカダーも、警察をやめることになった事件について深い悔恨を抱いている。彼らがその悔恨といかに向き合い、それを償おうとするかという過程の物語にも見えた。そのやりかた、償いへの殉じ方は少し信仰にも似ているように思った。スカダーが断酒会の心得みたいなものを思い起こすのは、彼なりの祈りの言葉なのではないだろうか。