小野寺健編訳
キップリングからモーム、ウルフ、ジョイス、D.H.ロレンスを経てドリス・ドレッシング、ウィリアム・トレヴァー、そしてスーアン・ヒル。20世紀に活躍したイギリスの小説家の作品を収録した短編集。上下巻、時代順で収録されているので、小説の時代背景の変遷もたどることができる。普段、なかなか読む機会のない作家の作品も(特に下巻では)多く、粒ぞろいでとても読み応えがあった。どこか苦味やブラックユーモア、寂寥感、生きることの悲しみが漂う作品が多いのは、編者の趣味なのか、イギリスのお国柄なのか。そんな中、キュートと言えばキュートだが冷静に考えるとちょっと怖い、P・G・ウドハウス(岩波文庫ではウドハウス表記)の「上の部屋の男」、最後の最後で人生は悪くないと思えるノーラ・ロフツ「この四十年」がアクセントになっている。個人的には、視点がミクロからマクロへゆらゆらゆれてどこか幻想的なヴァージニア・ウルフ「キュー植物園」、ジョイスってこんなのも書いてたんだ!と新鮮だったジェイムズ・ジョイス「痛ましい事件」、異邦人としての疎外感と差別への怒りが根底に流れるジーン・リース「あいつらのジャズ」を推す。