1939年のイギリス。第二次世界大戦がはじまり、イギリスはドイツに宣戦布告していた。ケンブリッジ大学の特別研究員で天才数学者と評判のアラン・チューリング(ベネディクト・カンバーバッジ)は、政府の極秘作戦チームに抜擢され、ドイツ軍の暗号エニグマの解読に挑む。チューリングは解読の為にコンピューターを開発するが、作業は遅々として進まず、チームメンバーとの溝も深まっていく。監督はモルテン・ティルドゥム。第87回アカデミー賞脚色賞受賞。エニグマを解読しコンピューターの祖でもある数学者、アラン・チューリングの人生をドラマ化した。
 戦後、とある状況に陥ったチューリングが過去を回想し語り始めるという、時間を行き来する構成だが、スピード感があり飽きなかった。チューリングは、いわゆる「空気を読む」ことが出来ない。行間が読めないので、省略した話法や、複雑な暗喩や言外の駆け引き等は、出来ないしされてもわからない。普通、面識がある同士で会話をすると、文法通りの話し方ではなく、言葉や文法を省略したり、仕草を多用したりするだろう。それを上手く読み取れないというのは、(人嫌いというならともかくそれほどでもない人にとっては)かなりしんどいのではないだろうか。
 チューリングにとって周囲の人たちの会話は、ある種の暗号みたいなものなのだ。自分にはよくわからないルールで周囲がやりとりしているのだ。また、周囲の人たちから見ると、四角四面で情感がないように見える(ちゃんとあるが、他の人と出方が違う)チューリングは、彼が発明したコンピューターのように見えたかもしれない。作品のキーとなっている暗号とコンピューターが、チューリング自身と重なってくるのだ。チューリングは自作のコンピューターに、ある思いを込めて名前までつけているのだが、自分の一部のようでもある。
 チューリングはチームの一員であるジョーン(キーラ・ナイトレイ)と親しくなるが、彼女は世の中のコミュニケーションが多かれ少なかれ暗号のようであるということに気づいており、ことにチューリングにとっては難解な暗号なのだということを理解している。パブでのナンパ見学シーンが象徴的だった。チューリングが、ジョーンが研究所で働けるように彼女の両親を説得する時、おそらく苦手(というかほぼできない)腹芸を必死でこなす。彼にとって、彼女は本当に理解者であったのだとぐっとくる。
 しかし彼女が抱えている、当時の女性ゆえの困難さにはなかなか思いが至らないあたりが、またせつなかった。彼にとっては周囲の人間も人の世も、エニグマと同じく、もしかしたらそれ以上に(エニグマには何であれ法則性がある)難解なミステリだったのかもしれない。