ケンブリッジ大学の学生スティーブン・ホーキング(エディ・レッドメイン)は、物理学の天才的な才能を開花させ、将来を期待されていた。言語学を学ぶジェーンと恋に落ちるが、スティーブンはALS(筋萎縮性硬化症)を発症、余命2年と宣告される。ジェーン(フェシリティ・ジョーンズ)はスティーブンと共に生きることを決意し彼と結婚。難病に立ち向かう結婚生活が始まる。監督はジェームズ・マーシュ。「車椅子の科学者」として知られるスティーブン・ホーキンス博士の自伝を元にしている。主演のレッドメインはこの作品で、第87回アカデミー賞主演男優賞を受賞した。
 存命の人がモデルだからストーリー上きれいめになるように(実際は介護にしろ夫婦関係にしろ本当に色々大変だったろうなーと思うが、そのへんにはそれほど言及されていない)配慮しているのだろうか。2人の出会いからパーティ、結婚までに流れは少女漫画のよう。衣装にしろインテリアにしろ、全体の色使いが淡いトーンで統一されていて、やわらかくキラキラした印象だ。パーティのシーンなど、ドレス!メリーゴーランド!花火!星空!とキラキラとときめきの全部乗せ状態。何より、ホーキング博士という現代の宇宙論に多大な影響を与えた人が主人公な以上、彼の研究内容や働いている姿にもっと言及があってもよさそうな所、非常にざっくりとした触れ方にとどめ、重点をスティーブンとジェーン、2人の関係に置いているところが、少女漫画的な世界を思い起こさせたのだろうか。
 ただ、スティーブンは介護が常時必要だという事情はあるものの、基本的に何かを「してもらう」態勢の人なんじゃないかな、という気がしてならなかった。元々魅力的で人を引き付ける、相手への影響力を持ちやすい人なのではないかと。スティーブンとジェーンは基本的に双方聡明で、自分たちの客観視が出来る人だからそんなに暴力的な気配は漂わせないが、一歩間違ったら、スティーブンがジェーンに対して過剰に支配的だというふうにも見えかねなかったと思う。
 ジェーンも論文執筆中なのだが、スティーブンの介護と子供の世話、日常の家事に追われ一向に進まない。車椅子で子供たちと遊ぶスティーブンを、ジェーンがじっとりとした目つきで見ているシーンがあるのだが、こういうことは一般ご家庭でも多々あるだろう。また、ドライブ中に運転しているジェーンが、スティーブンに自分だけでは無理だ、介護士が必要だと訴えるのだが、スティーブンは自分たちは普通の家族だ、他人が関わらなくて大丈夫なんだと拒否する(その後、怒るジェーンをいなして息子に話を振るのが卑怯だな~、でもこういうシチュエーションあるある!と苦笑した)。でもその「普通」はジェーンの献身によってかろうじて保たれているものだ。ジェーンの方も、結婚する前は正直ここまで大変だとは思わなかった、という見通しの甘さがあったんだろうが、スティーブンがジェーンの都合をあんまり考えていないなぁという印象がぬぐえなかった。
 結局、2人は夫婦としては解体していくわけだが、それが特に悲しいことや残念なことのように描かれるわけではなく(当人たちにとっては、その当時は辛かったり大変だったりしたかもしれないけど)、スティーブンとジェーンの関係においては一つの通過点であるように見せているところは、何か堂々としていていい。本作の邦題は、原題“ The Theory of Everything”とは意味が大分違うが、内容には、邦題の方が合っているように思う。こと人間関係においては The Theory of Everythingは成立しないし普遍性はない。「博士と彼女」の間のことを描いた作品だから( The Theory of Everythingを使うには、前述の通りホーキング博士の研究内容の見せ方がざっくりすぎているというのもある)。