庄野潤三著
「山の上」の家に住む老夫婦。娘や息子一家が訪れたり、近所の人たちや旧友と交流しつつ、四季は移り変わっていく。夫である「私」が綴る日々。著者自身が「私」である私小説で、友人の作家が実名で登場したりする。小説というよりも日記のようなとりとめのない文章で、とりたてて特別なことが起きるわけでもない。同じ言い回しが何度も繰り返されるところも、日々の記録っぽい。すごくきれいに漂白された日常ではあるが。しかし読んでいると、やはり小説なのだ。同じことの繰り返しなのになんで妙に面白いんだろうな。これが作家の筆力というものなのだろうか。ところで「私」は長女が作るアップルパイが好きで、出てくるたびにおいしいおいしいと綴るのだが、おいしいから人にやるな、と妻に言う時もあり、笑ってしまった。また、著者が作家の小沼丹と友人同士だったことは本作を読んで初めて知った。小沼の思い出がふいに出てきてほろりとする。小沼が楽しい人だったという思い出ばかりなのだ。