アンナ・カヴァン著、山田和子訳
異常な寒波に襲われ、氷河が町を侵食していく世界。「私」はかつて別れた少女の家へと車を走らせる。姿を消した少女を助けようと、「私」は某国に潜入し、独裁者である長官に接触するが、氷はじわじわと接近し、世界の終わりが近づいてくる。寒い・怖い・寒いの波状攻撃!カフカの小説のような不条理さ、かつ時間や場所がふらふらと飛躍していく、悪夢の中のような展開。「私」は長官と少女をめぐって敵対関係になったり、あるいは絆を感じたりする。「私」は少女を守ろうとするが、長官は少女を幽閉し、虐待する。しかしこの2人は時に同一人物のように見えてくるし、そうであることがほのめかされる。少女にとっては、保護の意図であれ支配の意図であれ、力の影響下に置かれるということに変わりはない。「私」にとって、全編通して登場する人物のうち、少女だけが他者であるように見える。他のものは全て「私」の裏側、「私」の投影のようなのだ。少女の他者性は、氷の圧倒的な他者性、わけのわからなさに通じるものがあるように思った。少女も氷も、恐ろしくも魅惑的なものなのかもしれない。