ラヴィ・ティドハー著、茂木健訳
 第二次世界大戦が勃発する少し前、世界各地に突然、異能者たちが現れた。彼らは各国の軍や諜報機関に密かに徴用され、激しい戦いを繰り広げた。時は流れて2000年代のイギリス。かつてイギリスの諜報機関で働いた異能者フォッグは、元相棒のオブリヴィオンと元上司オールドマンと再会する。オールドマンは過去のある事件を調査しており、フォッグの調書を要求していた。異能力者が活躍するSF戦争ものであると同時に、実際の歴史(第二次世界大戦以降)を下敷きにした偽史小説。ル・カレの小説の登場人物が『ウォッチメン』とか『キャプテン・アメリカ』(私が知っているのは共に映画版ですが)的世界にいる雰囲気とでも言えばいいか。特にフィクションへの史実の組み入れ方が上手く、アイヒマン裁判のあたりなどなるほどこうきたか!と唸った。異能者と言っても圧倒的に強いというわけでもなく、国や歴史のしがらみからは逃れられず、長寿であると同時に精神はどんどん摩耗していく。フォッグの行動は軽率で馬鹿みたいに見えるかもしれない。しかし、美しいもの、何か純粋なものを掴まずにはいられないような状態があるのだ。それはフォッグだけでなくオブリヴィアンにとっても同様だろう。それがわかっているからこそ、フォッグの裏切りとも見られかねない行為を許容する。道を別った2人のやりとりが痛切だ。ある美しい一瞬を繰り返し振り返る、哀感が残る(過ぎ去った)青春物語でもあった。