ラッセル・ブラッドン著、池央耿訳
プロテニス選手のオーストラリア代表キングと、ロシア代表ツァラプキンは、試合を通して親友となる。お互いに切磋琢磨した彼らは、ウィンブルドン選手権への出場を果たす。しかしその決勝戦の裏では、ある犯罪計画が進行していた。原著は1977年の作品。日本では以前新潮文庫で出版されたが長らく再版されず、昨年創元推理文庫から再度リリースされた。1970年代、まだ冷戦下の時代の話なので、序盤でツァラプキンが置かれていた状況など、現代(特に若い読者にとって)ではその危うさがぴんとこない部分もあるかもしれない。しかし、時代背景についても、テニスという競技についてすら漠然とした知識でも楽しめるという、リーダビリティの高い作品だと思う。小説にしろ映画にしろ漫画にしろ、良くできているものはその題材のことをそんなに知らなくても面白いものだなと実感した。キングやツァラプキンら、テニスプレイヤーたちの躍動感や、彼らにとってテニスがどういうものなのか、どういうふうに大事なのかということ、またキングとツァラプキンがプレイヤーとして次のステップに進む様が、ばっちり伝わってくるのだ。加えてウィンブルドンに舞台が移ってからは、クライムサスペンスとしてドラマが走り出し、息もつかせない。大観衆の中での犯罪と捜査は映画で見てみたくなった。また、捜査の際に大きな役割を果たすのがTVだ。TV放送ありきの設定なのが、時代の最先端という感じだったのでは。TVスタッフがあることに気づき慌てる警官たちに放つ言葉が、これがプロだな!というかっこいいものでしびれた。なおキングとツァラプキンの超絶信頼関係にもしびれた。お互いに大事にしすぎ、公然といちゃいちゃしすぎである。