ジェイムズ・トンプソン著、高里ひろ訳
ヘルシンキへ転勤したカリ・ヴェーラ警部。ロシア人富豪の妻が拷問殺人された事件を捜査するが、上層部から圧力がかかる。同時に、フィンランドはユダヤ人虐殺に加担したのではないかという、歴史の極秘調査と証言のもみ消しを命じられていた。ひどい頭痛に悩まされつつ、カリは捜査に奔走する。前作同様、カリの捜査は場当たり的な印象がある。物語を稼働させていくのは、謎解きよりもむしろ、カリが警官としての一線を越えそうな危うさ、そして、カリと妻ケイト、ケイトの妹弟との関係だ。前作ではアメリカ人であるケイトとの間にカルチャーギャップがあったが、今回はケイトの妹弟が、フィンランド文化に対する外からの目の役割を果たしている。また、国民性や文化だけでなく、本作では歴史を踏まえたロシアやドイツとの関係、歴史認識そのものについても言及されている。見たくないものは見ない、臭いものには蓋をするというのは、なかなか耳が痛い話だ。国の歴史だけでなく、カリとケイトの子供時代のトラウマも徐々に見えてくる。ケイトはカリに対して、本心を話してほしい、なんでも打ち明けてほしいという。カリはそれには時間がかかるんだと答えるが、彼が全てを妻に打ち明けることはないのではないか。愛や信頼があることと、何でも打ち明けあうこととは別のことだと考える人もいる。カリはおそらくそういうタイプなのだろう。それが破局につながりそうな予感がして不穏だ。