ジェイムズ・トンプソン著、高里ひろ訳
フィンランド郊外の雪原で、ソマリア移民である黒人女優の惨殺死体が発見された。容疑者は、捜査にあたった警部カリ・ヴァーラの元妻を寝とった男だった。捜査に私情をはさんでいると非難されつつ、カリは仕事を続けるが、さらなる悲劇が起こる。カリが警部を務めている地域では殺人事件などほぼなく、カリも部下らも本格的な殺人事件の捜査は初めてという設定。そのせいってことはないだろうけど、刑事ドラマとしてもミステリとしてもぎこちなくて、なぜその程度の証拠でこの結論に?とか、なぜそこを先に調べない?なぜそこに気づかない?みたいな部分が多い。事件そのものよりも、むしろその背景にあるフィンランドの風土や国民性の描写に関心をひかれた。言うまでもなく真冬は極寒(外での現場検証用に防寒服がある)で日の光はなかなか見られない。夏のフィンランドに惹かれてこの地での勤務を希望したアメリカ人のカリの妻は、冬の長さに滅入ってしまっている。「外国人」である妻とカリの間の祖語が、フィンランドの特徴を際立たせている。カリに言わせると思っていることをあまり口にせず、失敗を恐れ慎重派という国民性だが、日本とちょっと似ているだろうか。また、カリの妻は入院した際、医者も看護師も思いやりや励ましの言葉を掛けてくれなかった、自分が外国人だからかとショックを受けるが、カリは苦しんでいる人の尊厳を守る為に声をかけないのだと説明する。ここはフィンランド人にとったてのプライドの在り方が垣間見られてちょっとおもしろい。それにしても、そんなに酔っ払いだらけだとは(笑)。ちなみに著者はアメリカ生まれでフィンランドに渡った人。だから中からの視線も外からの視線も持てるのか。