演出家のトマ(マチュー・アマルリック)はマゾッホの小説「毛皮を着たヴィーナス」を戯曲化、主演女優のオーディションをしていた。めぼしい女優がおらずうんざりしていた。時間に大幅に遅れてきた女優ワンダ(エマニュエル・セニエ)に押し切られ、嫌々彼女の演技を見ることに。しかしワンダの演技は彼を引きこんでいく。監督はロマン・ポランスキー。
 支配する側とされる側が、するりと入れ替わるが、なぜか予定調和のように見えてしまう。ワンダの振る舞いは、支配する側であれされる側であれ、そもそもはトマの欲望であり、ワンダが女優である以上それを反射していくのは当然、という部分があるからだろう。なので、「入れ替わり」による天地の逆転みたいなものはあまり感じないし、2者の関係が同じ力でせめぎ合うもの、またトマが言うように「美しい」精神的なものとは見えないのだ。
 ポランスキー監督も、そのあたりは十分承知なのだろう。ワンダは「毛皮を着たヴィーナス」を読んで、ただのSMポルノだと言い放ちトマを怒らせる。ポルノじゃない、芸術だと説明しようとするトマの言葉も説得力はなく、頑張れば頑張るほどせこく見えてしまう。これは演ずるアマルリックの持ち味もあるんだろうけど、所詮下心ありきですよ、という諦念のようにも見える。エンドロールで数々のヴィーナス像が登場するのも、そういうことではないだろうか。芸術をエロの言い訳にするな!やるなら堂々とやれ!というポランスキー監督の説教のような気も・・・いやそれは気のせいか。そもそもポランスキーって結構えげつないというか、下品な見せ方も平気でやっちゃうところがあると思うので、気取ったことやってんなよって気分なのかもしれない。
 エマニュエル・セニエはすごく美人だったりスタイルがよかったりするわけではないが、「役」を演じている間はすごくセクシーだったり知的だったりする。これが女優の醍醐味なんだろうな。