尾崎真理子著
児童文学『ノンちゃん雲にのる』の作者であり、『くまのプーさん』やエリナー・ファージョンの諸作品など、数々の名作翻訳を世に送り出した石井桃子。某大な仕事を残した彼女だが、私生活に関してはあまり知られていなかったそうだし、彼女自身も自分のプライベートについて口にすることを好まなかったそうだ。そんな彼女への聞き取り、感会社への聞き取りを丹念に重ね、その人生をひも解く大作であり労作。子供時代のエピソードには、この人の世界を見る目の根っこはやはり子供時代に根差すんだなと思わされた。そして大量の仕事をこなしていくバイタリティと行動力、計画性は出版社勤務時代に鍛えられたのだろう。ただ、会社をやめて農業を始める等、はたから見ていると唐突に思えるところも。農地開拓の顛末も、真面目さが時に極端な方向に走っているようにも思えた。その生真面目や仕事に対する誠実さには、仕事の仕方も年代も違うが、須賀敦子の評伝を思い出した。自立した精神や正しい行いに対する意識、また表現の仲介者であることと自身が表現者であることとの揺らぎに似通ったところがあるのではないか。石井は優れた海外児童文学を大量に送り出した。しかし、作中でも言及されているが、石井自身が特に子供好きだというわけではないらしかったという点が面白いなと思った。彼女がいい児童文学を、と努めたのは、自分自身がそういうものを読みたいから、自分の中の子供に向けて送り続けていたのだろう。そういう動機の人が選ぶ・作る作品の方が深いところまで届くのではないかと思う。