トム・マクナブ著、飯島宏訳
1931年、興行主のフラナガンは、ロサンジェルスからニューヨークまで5000キロのアメリカ大陸縦断マラソンを企画する。賞金は不景気な時代には破格の総額36万ドル。かつての名ランナー、労働組合の闘士、地下ボクサー、踊り子、仲間と賭けをした貴族ら、様々な国の様々な人たち2000人が人生を賭けた勝負に挑む。冒頭から情景がわっと立ちあがってくる。私の好みからするとちょっと情景が見えすぎなのだが、リーダビリティ高く気分を上手いこと乗せられた。文庫上下巻の長編だが一気読みだった。大筋ではひたすらマラソンをするだけの話だが、いかに資金を調達し運営するかというビジネス小説的な側面、裏社会(アル・カポネも登場する)と対峙するサスペンス、オリンピック委員会の思惑も絡んだポリティカルスペンス、そして個々のランナーたちが負うドラマ、様々な側面が見られて盛りだくさん。ランナーの全員が生粋のスポーツマンというわけではないし、興行主のフラナガンはうさんくさい山師だ。しかし、山師には山師の矜持がある。それぞれがそれぞれの矜持を持ち、マラソンをなんとか成功させようとしていく。特に儲ける気満々だったフラナガンが選手と競技に対する敬意を示していく様にはぐっとくる。元カノならずともそりゃあ惚れなおすな!人間の善性、フェアさを信じている小説だと思う。