ピエール・ルメートル著、橘明美訳
見知らぬ男に拉致監禁されたアレックス。男は「お前が死ぬのを見たい」と告げた。衰弱しながらもアレックスは脱出を試みる。一方、女性が拉致されるのを目撃したとの通報を受けた警察は、カミーユ・ヴェルーヴェン警部を筆頭に捜査を進めていた。「このミステリーがすごい!」に選ばれるのも納得の面白さ。真相が見えたと思いきや、そこには裏が、そして更に裏があるというサプライズの連続技に唸った。ちょっとやりすぎでギャグのようになってしまいそうなところ、アレックスの「真相」の悲痛さがブレーキをかけている。ヴェルーヴェン警部を主人公としたシリーズの2作目(本作が初の邦訳)だそうだが、にもかかわらずなぜこの題名なのかということがよくわかる。アレックスの内面の描写と行動とはどこかちぐはぐなのだが、なぜそうなのか、そうならざるをえなかったのか。ある人がどのように自分を形作り、何と戦っていたのかが見えてくるにつれ、やりきれなくなってくる。物事(人)は見た目通りではない、というシチュエーションが様々な形で現れるが、大概陰惨なものの中、終盤、美しい形でそれが現れ、いい清涼剤に。