美しい妻ヴェラ(マリア・ボネビー)と2人の子供と暮らすアレックス(コンスタンチン・ラブロネンコ)。一家はアレックスの父親が遺した田舎の家で夏を過ごすことになった。長閑な田舎の生活を楽しむ一家だが、ヴェラがアレックス以外の男性の子供を妊娠していると告白し、夫婦の間に亀裂が入る。監督はアンドレイ・ズビャギンツェフ。原作はウィリアム・サロイヤンの小説。
 ヴェラが何を思い、何を考えているのかは、映画中盤まであまり言及されない。むしろ、アレックスの表情、行動にスポットが当たっており、アレックス主体の物語のように見える。ヴェラは作品上の「謎」として宙吊り状態のままなのではと思って見ていた。が、終盤になって、そうじゃなくて単に(アレックスが)不注意なだけか!という怒涛の過去シーンが。冷や水を浴びせられたようなはっとするものがあった。
 終盤で彼女が吐露する思いは、アレックスにも、その他の人たちにも理解されにくいものだろう。単にメンヘラ女扱いされて終わりと言うこともありうる。が、彼女にとっては生死に関わるくらいの問題だろう。そのギャップが、おそらく更に彼女を苦しめる。彼女の行動は極端にも思えるが、わかってもらえないなら、祈るくらいしかないではないか。同監督の『エレナの惑い』と合わせて見たが、エレナよりヴェラの方が生き方が難儀そう。エレナは「母」であることを選んだが、ヴェラは母親としての自分も妻としての自分も選びきれない、その役柄を装いきれなかったのではないか。それは彼女のせいではないと思うが、それだけにいたたまれない。
 物語のスケールに対して長尺すぎて、もっとコンパクトに締めてほしかった。同じシチュエーションの反復が多いが、そんなにやらなくてもなと思った。ただ、田舎の風景は大変美しく、ずっと眺めていたくなる。夏といっても小麦が色づくくらいの陽気で、黄金色の丘が連なっており絵本のよう。古びた教会や古い家々も絵になる。