シャルロッテ・リンク著、浅井晶子訳
イギリスの田舎の古い屋敷で、5人の惨殺死体が発見された。長年の付き合いの3家族が滞在する別荘だったが、彼らの間に何があったのか?生き残ったイェシカは、自分の夫とその友人たち、友人の妻たちの間に何があったのか、少しずつ探り始める。ドイツでは大ベストセラー作品だったそうだが、確かに面白く、ぐいぐい読まされ長さが気にならない。しかし嫌な話である。“本物の友情は、個人の尊重にも、それぞれのプライヴァシーの存在にも耐え得る。だが人工的な友情は、場合によってはそうはいかない”という文に一端が垣間見えるように、本作のモチーフになっているのは依存関係だ。様々な依存の形がそこかしこで描かれる。一見強い人であっても、その強さを成立させる関係性に依存していると言える。また、人間関係ではなく、屋敷に執着する「部外者」であるフィリップのように、自分の不運を誰かのせいにするために妄想のような願望にしがみつくというのも、ひとつの執着だろう。その執着の様を見ているのがとにかく居心地が悪かった。イェシカは部外者寄りの視線=読者の視線に近いので屋敷の人々の関係の異様さに気付いていくのだが、関係性のさ中にいるとわからないんだろうなぁ。所々に挿入される少女の日記が、年齢相応の視野の狭さでとげとげしいのだが、徐々に自分の父親たちの異様さに気づいてしまうところが痛々しい。