ベン・H.ウィンタース著、上野元美訳
小惑星が衝突するまで77日と予測されている地球。社会は混乱し、崩壊しつつあった。元刑事のパレスは、知り合いの女性から突然姿を消した夫を探してほしいと頼まれる。電話もインターネットもろくに機能しない中、失踪者を探しだせる可能性は低い。しかしパレスは調査を開始する。『地上最後の刑事』に続き、終末を迎えつつある世界で探偵する主人公を描くシリーズ2作目。法律を守り「警官」(本作では警察を辞めているが、彼のメンタリティはいまだ警官)たろうとするパレスの行為は、正しいようにも見えるが、彼の置かれた環境を考えると、むしろ奇異にも見える。犯罪者を逮捕しても裁かれる前におそらく(小惑星衝突により)死亡してしまうだろうし、失踪者は「死ぬまでにやりたいことリスト」を消化するためにいなくなったのかもしれない。前作ではかろうじて社会らしきものが保たれていたが、本作ではより混乱が深まり、物資の奪い合いの為の闘争も頻発している。パレスの妹にしろ、キーマンとなる人物にしろ、絶望から逃れる為にはかない望みにすがったり、ある種の強迫観念に駆られて行動したりしているように、現実を直視していないように見える。しかしパレスの(法にのっとった)正義を守ろうとする、秩序を保とうとする姿勢もまた、ある望みにすがっているもの(少なくとも生存本能には反している)のではないか。そして同時に、非常にハードボイルド的でもある。バカみたいかもしれない、でもやるんだよ!という(そんなに威勢のいいものではないが)パレスの姿勢が次作(3部作だそうだ)ではどのように見られるのか。引きの強いラストで続きが気になってたまらない。