ヘレン・マクロイ著、駒月雅子訳
ある事情からハイランド地方の村を訪れたダンバー大尉は、家出を繰り返す少年が、ムア(荒野)で突然消えたという話を聞く。少年はほどなく戻ってきたが、彼は何かを異様に恐れていた。そして、少年の家庭教師が殺された。ヘレン・マクロイのミステリは折り目正しくて好ましいなぁ。色気を出し過ぎず、出さなすぎもせずというバランスがいい。本作では人間消失と密室殺人という2つの要素が盛り込まれているが、実はそこ以外の部分の謎に対する解が、おおなるほど!という納得感が強く、どんでん返し的なサービスにもなっていて満足度が高かった。ロジカルな部分以外でも、ハイランド地方の風土の描写やムアの風景、そして人間の機微など、小説としての彩の部分がきちんとしているので、そこでも安心して読める。第二次大戦後の社会の雰囲気が伝わってくる(そして事件とも深くかかわってくる)ところも興味深い。