ラピュタ阿佐ヶ谷の特集上映「ミステリ劇場へようこそ」にて鑑賞。1962年、松尾昭央監督作品。原作・脚本は星川清司。刑事の小田切(長門裕之)は敏腕で総監賞を何度ももらっているが、正義感が強すぎ非情な為、署内では浮いていた。ある日、町の顔役で食わせ者の田口が、15年前の強盗致死事件の口を割るが、殺人の実行犯は自分ではなく房井(大坂志郎)なる男で、居所は知らない、もう時効だとうそぶく。時効まで37時間あると気づいた小田切は、執念の捜査を開始する。
 いやー面白かった!特集上映のフライヤーでは傑作刑事ドラマの名作とうたっていたが、誇大広告というわけではなかった(笑)。捜査もののひとつの面白さである、出てきた証言・証拠を追って更にあっちに行ったりこっちに行ったりという「移動」がたくさんある、そしてその「移動」が列車によるものであるところが、個人的には魅力だった。小田切は証言を取るためにわざわざ熱海まで行く(時効まで1日半くらいしか時間がないのに!)んだが、当時ののんびりとした列車の旅では、ずいぶんやきもきしたんじゃないだろうか。列車と駅が結構出てくる作品だ。
 また、刑事ドラマの定番とも言えるが、正義とは何か、赦しとは何かというテーマで真っ向勝負している。直球すぎて、この手のドラマの種々のバリエーションが出てきた現代では、若干単純化しすぎなきらいはあるのだが、だからこそ今見ても古びないのかなと思う。小田切は正義感故に時に暴力的にもなり、他人の過ちを許さない。彼の行為は警官として「正しい」のだが、その正しさは独りよがりなものではないのか、警官としての(法律上の)正しさと人を思いやる上での正しさは必ずしも一致しないのでは、というジレンマは刑事ドラマの定番だろう。
 小田切の恋人で元はある事件の犯人の愛人だった志満(渡辺美佐子)は、小田切が口には出さないが自分をどこかで許していないと感じ別れを切り出す。 また、小田切の捜査がある一家を崩壊させそうだと知った同僚の桂木(梅野泰靖)は、小田切を諭す。小田切が刑事の正義を取るか、人としての正しさを取るか、最後まで目が離せない。