南アフリカの都市ケープタウンで、若い女性が殺された。事件を担当する刑事ブライアン(オーランド・ブルーム)とアリ(フォレスト・ウィテカー)、ダン(コンラッド・ケンプ)は、女性の体内からドラッグが検出され、殺された当日、彼女がドラッグの売人と会っていたことを突き止める。アリはその薬物が、多発している子供の失踪事件の現場で発見されたものと同じだと気づく。原作はフランスのクライムノベル『ZULU』、監督はジェローム・サル。脚本は『あるいは裏切りという名の犬』のジュリアン・ラプノー。
 日本ではオーランド・ブルーム主演ということくらいしか宣伝要素がなさそうだったが、地味ながらなかなか面白かった。製作はフランスで、ハリウッドのサスペンスとはちょっと雰囲気が違うところも面白い。フランスのサスペンス映画は、基本温度低目なのだがある一点で情念が濃くなることが多いように思う。本作でも、ベースは乾いているのだが、所々でねっとりとしたほの暗いものが感じられる。
 ほの暗さの元は、過去の記憶からくるところも大きいだろう。社会的な問題に強く言及する作品ではないのだが、アパルトヘイト撤廃後の社会の雰囲気が垣間見られる。アパルトヘイト時の為政者は処罰されたりしているのだが、恩赦があってあっさりシャバに戻ってきているし、しかもそれなりの地位を手に入れている。結局根っこの問題は変わっていないという部分もあって、これは反アパルトヘイト側としてはもどかしいんだろうなとわかるのだ。過去を糾弾し続けていては前に進めないが、過去を忘れることもできないというジレンマを、おそらく多くの人が抱えているのだろう。
 そのジレンマを体現しているのがアリだ。彼は理性的な良識派で、過去は過去、これからのことを考えようという立場。しかしそんな彼であっても、(これは人種問題とは別の理由によるものだが)あるきっかけで憎しみに駆られてしまう。元々人間には暴力への指向が備わっており、暴走させるにはスイッチを押すだけでいいのだとでもいうようだ。ドラッグ事件の真相との対比が皮肉に見える。
  しかし一方で、ブライアンは過去との折り合いをつけ、一歩踏み出す。ラスト、どこか所在なさげにたたずむ彼の姿が印象に残った。演じるオーランド・ブルームは王子様的な役柄が多かったが、本作では顔と刑事としての資質以外は結構ろくでもない(笑)男役で、これが意外とはまっている。ヨレヨレによごれた姿もなかなかいい。なお、ブライアンの別れた妻子に対する褒められたものではないのだが、信頼する同僚やその家族に対しては思いやりを示すし親身になる。彼にとって、妻子は「仲間」じゃないんだろうなぁ。こういう人は実際にいそうだなと思った。