ミレーナ・アグス著、中嶋浩郎訳
忙しい両親に代わり、“わたし”の傍にいた祖母。祖母が遺した手帳には、結婚後の1950年、保養地で出会った「帰還兵」との愛が綴られていた。“わたし”の記憶と祖母の綴った内容とが交互に現れる。祖母は自分は愛を(夫や子供との関係の中では)手に入れられなかったと思っていたが、読んでいると、愛はそこにあるように思える。愛がどんなものかは人によって違って、当事者には「ある」ということが見えないのかもしれない。祖母がたびたび「後悔した」というのも、後々には物事が違って見えるようになったからではないか。と思っていたら、最後にあっそういうことか!と。祖母が少女の頃から文才があったというのは、文章を書くことが得意である以上に、書かずにはいられなかったのだ。これは物語を持たずにはいられない人の話だったのかとはっとした。祖母にとっての世界との和解の仕方は、これだったのだろう。