ロベルト・アンブエロ著、宮崎真紀訳
チリで探偵をしているカジェタノは、この仕事を始めるきっかけとなった出来事を思い出す。1973年、アジェンデ大統領が樹立した社会主義政権は、大きく揺らいでいた。そんな中、国民的詩人のネルーダと知り合い、彼にある人物を探してほしいと頼まれる。カジェタノはチリ国内にみならず、メキシコやキューバ、更に東ドイツにまで足を延ばす羽目になるが、依頼にはネルーダの別の目的が隠されていた。日本で翻訳される機会は少ないであろう南米ミステリだが、これは面白い。本作がシリーズ6作目だそうなのだが、主人公が探偵になったきっかけの物語なので、最初に読むにはよかったのかな。カジェタノが人生のある季節を終え次に進む物語であると同時に、その背景としてチリのある時代の終わりが描かれており、悲哀が漂う。ネルーダを始め実在の人物が登場することに加え、時代背景を多少知っていないとわかりにくい(ので、訳者解説を先に読んでもいいと思う)かもしれない。ネルーダのカリスマ性とともに、自分の才能を最優先する傲慢さ、そこから生じる弱さもどこか物悲しかった。